オリックス生命保険株式会社

「人と人」「人と組織」の組み合わせが成果を変える
オリックス生命が挑んだ人材配置AIの最前線
〜人材配置AI予測モデルの開発・導入をご支援〜

左から:村松 佑紀 様、石田 雅彦 様(オリックス生命保険株式会社)、宮川、青野(当社)

1991年の設立以来、保険を通じて社会と人びとの安心に貢献し、発展を遂げてきたオリックス生命保険株式会社。2025年時点での個人保険の保有契約件数は約470万件、保有契約高は約14兆円、代理店数は約5,800店にのぼるなど、国内有数の規模を誇る生命保険会社である。

近年、保険業界を取り巻く環境は一層激化しており、商品力だけに頼る販売からより高度な営業力による販売への戦略転換を求められている。加えて、新たな人材の獲得が困難な中、同社が注力したのは既存社員の力を最大化することであった。

同社では数年前より、人材活用や組織開発を目的とした各種サーベイを積極導入し、データの蓄積を進めてきた。個々の特性や組織の状態を把握するための基盤は整いつつあったが、それらのデータは個別に活用されることが多かった。横断的・統合的に結び付けて成果につなげる点に課題を感じていた。

こうした問題意識のもと、東京大学エコノミックコンサルティング株式会社(以降、UTEcon)との協業が開始した。目的は蓄積された人材データを戦略的に利活用し、経営成果に結びつけること。その第一歩として、同社の重点戦略分野である代理店営業にフォーカスし、「人と人」「人と組織」の相性という観点から成果創出の構造を分析。最終的には、会社全体の成果最大化を目指す人材配置AI予測モデルの開発へと至った。

今回、オリックス生命保険株式会社執行役員の石田雅彦様、人事部の村松佑紀様に開発前の課題感やUTEconにご依頼いただいた経緯、開発プロセスで苦労した点や今後の展望について詳しくお伺いした。



【人材配置AI予測モデルについて】
約 6,000 項目に及ぶデータをもとに、「人と人(管理職と営業担当者)」や「人と組織(社員と支社・チーム)」の組み合わせの相性適合度を算出し、配置によるパフォーマンス向上効果を定量的に予測するAIモデル。指定した営業担当者に対して、相性の良い管理職や組織が自動計算され、適合度の高い配属先が一覧表示される。拠点を指定すれば、その拠点の管理職や組織と相性の良い職員が一覧表示される。本モデルにより、社員の成長と業績向上の双方につながる最適な人材配置を目指す。

※参考URL:

https://www.orixlife.co.jp/about/news/2025/pdf/n251120.pdf

石田 雅彦

オリックス生命保険株式会社 執行役員 人事・総務本部管掌



村松 佑紀

オリックス生命保険株式会社 人事企画チーム長



青野 将大

東京大学エコノミックコンサルティング株式会社(UTEcon)マネージャー

メンバー紹介

豊富なデータを結び付けて活用し、社員の成長や業績向上につなげたい

ーーまず、今回のプロジェクトまでに御社が抱えていた課題をお聞かせいただけますか。

オリックス生命保険株式会社 執行役員 人事・総務本部管掌 石田 雅彦 様

 

石田:  数年前までは医療保険の商品力を活かした販売が主流でした。しかし、当該領域の競争が激化し、いわばレッドオーシャン化しました。

この環境変化を受け、保障性商品に重点を置くという戦略転換を行いました。保障性商品を代理店を通じて法人の経営者などに販売していくため、これまで以上に営業が代理店と信頼関係を築き、商品力だけで売るのではなく、営業担当者一人ひとりの力量がより一層求められます。

加えて、年々労働人口が減少し、同業他社との間の人材獲得競争が厳しさを増す中で、営業担当者の新規採用も難しくなっています

 

ーー既存社員の一層の活躍に着目された理由ですね。

 

石田:  そうです。人事戦略として、私たちが重視したのが現有リソースの有効活用でした。

そして、その方法論として着目したのが社員間、そして社員-支社間の「相性」という観点です。長年人事に携わる中で「人と人」「人と組織」の相性と、「人」「組織」のパフォーマンスには相関関係があるのではという仮説を以前から持っていました。

この仮説の裏付けが進めば、業績向上に資する配置へと適用できるのではないかと考えていたのです。

幸い、我々にはここ5年ほどの間に蓄積してきた膨大なデータがありました。ただ、それらは点在するデータとして個別に扱われることが多く、分析も点群を眺める域を出ていませんでした。人材配置の成果指標を踏まえ必要なデータが検討できていないという課題がありました

 

ーー村松さんは人事企画でお仕事をされていますが、現場では具体的にどういった課題感がありましたか。

オリックス生命保険株式会社 人事企画チーム長 村松 佑紀

 

村松:  実際に異動業務を進めていく中では、営業担当者について様々な情報を把握し、多角的な観点で実務を行ってきました。

ただ、データがあまりにも多いため、どの業務にどのデータを活用すべきか。この観点が抜け落ちてしまうことが往々にしてありました。

 

ーーUTEconにご相談いただくまでの経緯を教えていただけますか

 

石田:  東京大学マーケットデザインセンター(以降、UTMD)のセンター長である小島武仁先生(UTEconアドバイザー兼務)に関する新聞記事を見つけたことが最初のきっかけです。

私は複数の会社で人事業務を経験する中で、データを人事に活用することに強い関心をもっていました。記事を拝見して「今後、何かできないだろうか」と感じたのが率直なところです。

 

 

石田:  偶然にも2024年2月にある企業主催のプライベートカンファレンスで小島先生とご一緒する機会があり、その場でご相談させていただいたことがプロジェクトの発端になりました。

その後、小島先生のもとへ私たちがお伺いし、配属を考える上で「人と人との組み合わせ」にマッチング理論を応用できないか、といった議論をさせていただきました。

しばらく小島先生のチームも兼務されている小田原さん(UTEconマネージャー)とメールでやり取りを重ねた後、UTEconの宮川先生をご紹介いただいた、という流れです。

宮川:  UTMDが取り扱うマッチング理論では、「社員がどういう部署に行きたいか」や「支店としてどういう社員がほしいか」といった、主観的な好みをベースに良いチームをつくることを考えていきます。

 

UTEcon 宮川 大介

 

宮川:  一方で、今回オリックス生命様が重視されていたのは、好みが何かというよりも「実際にどういうチーム編成が営業成績向上に貢献するのか」という点でした。このためには統計学的アプローチを用いて客観的に検証し、説明可能な形で見ていく必要があった。UTEconにご依頼いただいたのは、まさにそういう背景があったからだと思います。

石田:  実際に、業績とリンクさせて、数字・パーセンテージといった形で定量的に可視化できるアウトプットが出てきました。ビジネスサイドの我々としては、意思決定の拠り所が明確になり、とても心強いと感じています。

 

ーー最初にオリックス生命さんからお話を伺った際のUTEconメンバーの所見はどのようなものでしたか。

 

宮川:  まず素直に素晴らしいと感じたのは、計測・蓄積されているデータの豊富さです。

実は、今回行った分析は極めて珍しいものです。私の知る限り、これほどの粒度でチーム単位のパフォーマンスを扱い、しかも定量的に説明しようとするプロジェクトはほとんど例がありません。過去にも米国メガテックを中心に「どのようなチームが良いか」を検討した研究はありますが、実務的に参照できる確たる含意が得られていないのが実情です。

本件は実務に直結する形で、より緻密に定量化した点で稀有な事例と言えます。

 

 

宮川:  また、我々の疑問や仮説に対して、みなさまが背景や解釈を丁寧にご説明くださり、非常に進めやすいプロジェクトでした。

加えて、当初から「チャレンジングなテーマだ」という印象がありました。構想段階から実務的なニーズを踏まえた調整はありましたが、それも含めて研究者としても非常に刺激的で、楽しく取り組ませていただきました。

青野:  初期の打ち合わせで、データの種類や粒度についてお話を伺った際に、多様な固有データを保有し、それらを提供いただける点は非常に珍しいと感じました

 

UTEcon 青野 将大

 

青野:  人事データの持ち出しに慎重な企業も多い中で、「必要な処理を施した上であれば分析に利用して良い」という柔軟なスタンスをお持ちだったことは、プロジェクト推進において大きな後押しになりました。

さらに、すでに社内で一定の分析や効果検証を実施されており、データ活用へのご見識が深かったこともコミュニケーションが円滑に進んだ要因だと思います。データの結合方法などについても多くご相談させていただきましたが、広義のデータセットを構築する上で非常にありがたいご対応でした。

 

データを正確にモデルに反映するために必要な双方の地道な作業

ーー本プロジェクトで一番難しかったのはどういう部分ですか。

 

村松:  人事が保有する情報に加え、営業企画や各支社からも様々なデータを提供させていただきました。しかし、単純に数値だけを読むと誤解を招きかねない当社特有のビジネス構造や組織事情が多くあります。

そのため、UTEconさんにデータの背景や意味を正確にお伝えすることに特に注力しました。

例えば、チーム長が配置されている組織もあれば、そうでない組織もあるなど、組織構成の違いはデータだけでは判断できません。こうした文脈を誤って解釈すると、モデルそのものが誤った前提で構築されてしまいます。そこには、細心の注意を払いました。

 

ーーUTEconメンバーが苦労したのはどのようなことでしたか。

 

青野:  おっしゃる通り、解釈を誤ったままモデルを構築すると、期待する成果につながらない可能性があります。そのため、ひとつのデータ項目に対しても多角的な質問を重ねさせていただきました。

結果としてコミュニケーションに時間を要した部分もありましたが、そのプロセスがあったからこそ、データを正確に理解し、アルゴリズムへ適切に落とし込むことができました。最終的には、より精度の高い成果物につながったと考えます。

 

画期的な取り組みに社内外から大きな反響が。今後は営業以外の部門への応用にもチャレンジしたい

ーーこれから成果を上げにいく段階だと思いますが、現時点での期待や変化についてお聞かせください。

 

石田:  営業力の強化という経営目標に対し、人事戦略として具体的な打ち手を講じられたことは大きな成果だと感じています。

2026年4月1日の定期異動から、本モデルをフル活用していく予定です。ただし、使用しているのは過去のデータであり、実際に人事異動を決める際には個々の社員の志向や足許の状況を踏まえた検討も必要です。

また、これだけで配置を決定するとなると、社員からはAIに自分の運命を決められるという反発があるかもしれません。

依然として、人事は「アート」だと思っています。データに基づき客観的に構築されたモデルですが、あくまでより良い意思決定を行うための補助ツールと位置付けています

ーー今後の展望をお聞かせください。

 

 

石田:  最適な配置が実現すれば、社員一人ひとりのパフォーマンス向上につながり、それが全社的な底上げとなって競争力向上に寄与すると考えています。

また、営業領域で成果を出せれば、他部門への応用も視野に入ります。間接部門などへの展開も検討したいところです。ただし、難しいのは成果の定義をどう捉えるかでしょう。

営業であれば、NBAP(New Business Annual Premium:新契約年換算保険料)が明確な成果指標となります。しかし、総務・人事などの間接部門では成果の定量化が容易ではありません。ただし更なる業績向上の余地はあると感じており、今後も新たなチャレンジを模索していきたいと考えています。

 

ーー営業以外の領域に今回のプロジェクトの発展形を適用しようと思った時に、どういうことが必要になるでしょうか。

 

宮川:  大きく2つあると考えています。

1つ目は、生産性をどう定義し、どのようなアウトプットとして導出できるかという点です。今回も計測可能性が大きな論点になりました。何を成果指標とみなすかは部門ごとに全く異なります。営業と人事、開発や管理部門でも指標は変わります。どの指標を設定し、それをどこまで定量化できるのか。その設計を丁寧に行うことが、最も重要で本質的な部分だと思います。

2つ目は「使い方」です。仮に高度なデータ最適化が可能になったとしても、その結果に判断を全て委ねるという発想は避けたほうが良いです。現場の経験や判断と、データから得られる示唆をどう融合させるかが重要です。そのバランスをどう設計するかは簡単ではなく、研究テーマでもあると感じています。

 

 

宮川:  他領域へ展開する際も、この「生産性の定義」と「データと人の判断の融合」という2点が鍵になると思います。

今後またそのようなプロジェクトに挑戦できる機会があればと思いながら、引き続き研究を深めていきたいと考えています。

青野:  他領域へ展開する上で重要なのは、「どのデータを使うか」を決める前に、まず現場が何を成果と捉えているのかを丁寧に把握することだと思います。

 

 

青野:  今回のプロジェクトも、いきなり分析設計に入ったわけではなく、「生産性をどう見ていますか」「現場では何が成果だと実感されていますか」といった問いから始めました。

そこで得られた現場の認識があったからこそ、必要なデータ項目を見極め、モデルに落とし込むことができました。

他部署に応用する場合も同様に、まずはその部門にとっての成果や価値の定義を言語化し、それを測るために何が必要かを整理するプロセスが不可欠です。現場の理解と納得を土台に設計しなければ、実効性のある仕組みにはならないと考えています。

 

営業力で販売する会社に最適なコンサルティングサービス

ーー最後に、UTEconのコンサルティングをお勧めしたい業界はありますか。

 

石田:  近年、社員教育やスキル開発への関心は高まっており、データ活用に興味を持つ企業は非常に多いと感じています。潜在層も含めれば、活用を模索している企業は相当数あるのではないでしょうか。

一方で、商品力だけで売れてしまうビジネスモデルの場合、必ずしも同様の必要性は高くないかもしれません。そう考えると、本サービスは「営業力で成果を上げなければならない企業」に特にフィットするのではないかと感じています。

村松:  特に取り組みやすいのは、無形商材を扱う企業ではないでしょうか

 

 

村松: 無形商材の場合、営業の汎用性が高く、営業担当者やマネジメントの力量が成果に大きく影響します。誰がどのように関わるかが業績に直結するため、人材配置や組織設計の影響度も大きいと考えられます。

そうした業界こそ、データを活用した配置最適化の価値をより実感いただけるのではないかと思います。

 

(インタビュアー: 松尾知明、文章:戸田有亮、撮影:泉田真人)

 

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